大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和49年(行ク)3号 決定

申立人

山崎久之助

右代理人

高田良爾

主文

本件申立を却下する。

理由

一申立の趣旨

当庁昭和四六年(行ウ)第一六号所得税更正決定処分取消等請求事件の被告大阪国税局長を被告国税不服審判所長に変更することを許可する。

二申立の理由

1  申立人は、昭和四六年九月一三日、中京税務署長と大阪国税局長を被告として、前者に対し申立人の昭和四〇年、四一年、四二年分所得税に関する昭和四四年三月一三日付更正処分、後者に対し右更正処分についての申立人の審査請求に対する昭和四六年六月一五日付裁決の各取消を求める訴え(当庁昭和四六年(行う)第一六号所得税更正決定処分取消等請求事件として係属、以下本件訴えという。)を提起した。

2  しかし、昭和四五年国税通則法の一部改正により、審査請求に対する裁決行政庁が国税局長から国税不服審判所長に改められた結果、右裁決の取消訴訟については国税不服審判所長を被告とすべきところ、申立人は、右訴訟の被告適格者が従来通り大阪国税局長であると思慮し、誤つて同局長を被告として本件訴えを提起したので、行政事件訴訟法一五条により被告大阪国税局長を被告国税不服審判所長に変更することを許可する旨の決定を求める。

三当裁判所の判断

1  本件記録によると、本件申立の理由1の事実が認められる。

2  ところで、中京税務署長の前記更正処分及びこれに対する申立人の審査請求がなされた当時の国税通則法の規定によれば、右審査請求に対する裁決行政庁は国税局長であつたが、昭和四五年五月一日施行の国税通則法の一部を改正する法律(昭和四五年法律第八号)により国税不服審判所が発足し、以後国税不服審判所長が右審査請求に対する裁決行政庁となつたのであるから、行政事件訴訟法一一条一項に照らし、右審査請求に対し右法律施行後になされた裁決の取消を求める本件訴えについて被告適格のあるものは大阪国税局長ではなく、右法律によつて裁決行政庁となつた国税不服審判所長であることが明らかである。

3 本件記録によると、申立人は弁護士である訴訟代理人に委任して本件訴えを提起したが、右代理人の作成した本件訴状には、その請求原因の欄に、申立人の前記審査請求に対する行政庁の審査につき手続上の瑕疵があり、その結果国税不服審判所がした本件裁決は国税通則法九八条三項に違反するもので、違法である旨の記載のあることが認められる。

右事実に照らすと、右代理人は、本件訴状を作成した当時既に、右裁決をした行政庁が大阪国税局長ではなく、国税不服審判所長であることを一応認識していたものと認めることができ、偶々前記更正処分から右裁決に至るまでの間に国税通則法が一部改正され、裁決行政庁が変更されたという事情があつたにせよ、右代理人において本件訴えの提起前本件訴状を読み返してさえおれば、その被告の表示と右請求原因の記載との間の矛盾にたやすく気付きえた筈であり、仮に右裁決の取消請求の被告適格になお疑念があつたとしても、国税通則法の規定を調査し或いは右裁決書の謄本を検討することによつて、その被告とすべき適格者を容易に知りえたものといわなければならない。

それにもかかわらず、右代理人は、漫然本件訴状に右裁決の取消請求の被告を大阪国税局長と誤つて表示したまま本件訴えを提起したのであるから、その誤りは弁護士として当然払うべき右のような些少な注意を怠つたことに起因するものというべく、かかる過失は行政事件訴訟法一五条にいう重大な過失にあたるものといわなければならない。

4  よつて、申立人の本件申立は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(上田次郎 谷村允裕 安原清蔵)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例